母と息子と孫娘、3代にわたる物語。
東京オリンピックとバレーボールを軸に過去パートと現代パートで交互に綴られます。
息子にバレーボールを教えた母は過去の自分について語らなかったのですが、認知症の影響かポツポツとおかしな発言をするようになります。
「私は東洋の魔女」ってどういうこと?
2020年12月初版本、2018年11月から2020年4月まで雑誌連載されたそうで、2020年にオリンピックが開催されること前提で書かれた物語です。
(以下ネタバレも含みます)
日本が戦後まだ貧しかった時代
主人公の母は戦前生まれ。
九州地方の農家の6人兄弟の娘で、中学卒業と同時に愛知の紡績工場に女工として就職します。
過酷な労働の毎日だけれども同世代の友人と楽しく過ごしている様子は、少し前の朝ドラ『ひよっこ』を思い出します。
故郷の親のすすめで見合い結婚、炭鉱の町の社宅で暮らしますが、夫のDV、上手くいかない子育て、夫の事故死で子供を連れて故郷に帰ります。
自動車も炊飯器も洗濯機もない時代の家事、オリンピックをきっかけにテレビが普及し始める様子など、ほんの50年ほど前のことなのに今とは別世界のようです。
子供の個性を生かして育てていくこと
息子は難しい子で母は子育てに苦戦します。
とはいえ親が決めた見合いで夫に幸せにしてもらおうと思っていた若干の甘さも読み取れた若き日の母です。
ある事件をきっかけに親子は誰も知る人のいない東京に旅立ちます。その時の母の決意が以下のような言葉で綴られています。
『この子は、人殺しでも、悪魔でも、何もできん子でもない。母親である万津子が舵取りさえ誤らなければ、他の子にも負けないくらい、まっすぐに育っていくことができるはずだ。』(325ページより引用)
子育てって、こういう親の覚悟がなければできないものだ、と思うのです。
人をひとり大人にするのには、ものすごいエネルギーが必要です。言い換えれば子供にエネルギーを吸い取られます。
そして子供の得意分野と苦手分野の見極めも必要で、一番そばにいる親が「舵取りを誤る」ことのないようにすることが大事なのだろうなぁと思うのです。
そして、さりげなく書かれていますが息子の妻が素晴らしいのです。
個性の強い息子と良い夫婦関係を作り、孫娘を上手く導いています。
物語の最後は涙なしには読めませんでした。
筆者は1992年生まれ
筆者の辻堂ゆめさんの作品を読むのは初めてです。
まだ若い1992年生まれ、私の長女と同じ平成4年生まれです。
これからも追っていきたい作家さんのひとりになりました。
若い才能に読者はワクワクしています。